数年ぶりに裁縫をする
「裁縫」というほど大仰なものでもないかも知れないけれど、シャツにボタンを付けた。
雑だな。
これは日本から持ってきたシャツだから、もう20年以上経つ。ボロボロだけれど、洗い晒しの綿の風合いがとても心地よいので、捨てずに胸のところに切り込みを入れて、抗癌剤点滴の時用に着ている。
切り込みのところをペロッとめくると、胸に埋め込まれた抗癌剤点滴用のポートが現れるしくみ。
とある看護師さんに、「古いシャツに切り込みをいれて着るとよい」と教わってその通りにした。
100%看護師にウケる。
Excellent idea! とかなんとか。そりゃ彼女らが作業しやすいもの。
わたしゃ軽口はたたかない物静かなマイノリティのアジア人患者だけれど、そんなわけで病院では嫌われてはいないと思う。
こういうの地味に大事。
とくにチップが効かない病院のようなサーヴィス業においては。
それはさておき。
思えば「日本製」のシャツなど今どきは絶滅危惧種なのではないだろうか。
このシャツは日本製で、確か新宿の伊勢丹で買ったものだ。
タグにちゃんとスペアのボタンが付いている。こういうの大事。
イマドキのユニク〇のシャツに、スペアのボタンが縫い付けられてるだろうか?
あっ、いま見てみたらちゃんとついていた。これは失敬。
ボタンの縫い付けは、抗癌剤の副作用で指先に少し痺れがあり、すこしだけ難儀したけれど、グルグルグルと最後に糸を三回巻いて、なんとか出来た。
なんだろう。
得も言われぬ達成感がある。
ひとは手を動かして何かを成すことにヨロコビを覚える動物なのか。知らんけど。