断・胃食道亭日乗。旧「宇宙日記。宇宙にはぜんぶある。」

(消防署のほうから来ました。) 食道胃接合部癌→術後肝転移(Stage IV)のヲッさんの暮らし。

入院13日目

月曜日。

オキシコドンはよく効く痛み止めだと思うけれど、どうも悪夢を見やすい。いちど目覚めてああこれは薬の影響の悪夢で、なんの問題もないのだと自分に言い聞かせてから寝ついても、続編のような悪夢を見てしまうのはなぜだ。これが楽しくて面白い感覚とか夢ならば歓迎するのだけれど、再び寝ついて良い夢の続編を見続けたという話はあまり聞かない。寝たり覚めたりで朝を迎えた。昼間もソファーで寝たりしているから、別に夜にたくさん眠らなくても良いし。

外科医の回診。ドレインも昨日外れた、傷口の治りも問題ない。胃腸の調子はどうだ。明日か明後日にでも胃瘻tube feedingの扱い方を覚えて退院だな、と言われる。よし。ここまできた。順調で何よりだ。胃瘻を付けたままの退院となり、少なくても次の外来診断まで2週間ほどついたままになるのだろう。そのあいだ「訪問看護」というサービスがあり、1回1時間週に3回まで、傷口のケアなり胃瘻チューブの管理などを頼めるという。もっとも胃瘻チューブはさっき看護師が説明してくれたのを見て、扱いは覚えてしまった。

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胃に繋がれているチューブ。

仕組みは単純。ここから液体の薬を注入したりもする。

そうかこの先まだ胃瘻なのか。口も喉も何ともないし、食べる気満々なので、口寂しいことこのうえない。ちょいとくらいは食べても良いんじゃないの?とも思うのだけれど、医者の説明によれば、何せ食道の下部半分と胃の上部半分を切除して繋げてあるわけだから、その辺の機能の順応も考えてやらなければいけないのだろう。焦らずにやるしかない。けど日本ならお粥だよなぁ。梅干しと塩鮭で食べたいよなぁ。来年の今頃は寿司の一人前くらい食べられるようになっているだろうか。

午後、退院準備に向けて、色んな専門家が説明に来る。喋るのと飲み込み訓練の人。氷水をカップに一杯持ってきて、20回飲めという。まー言われる通りに飲む。嚥下する力と神経が弱っていると想定して、意識して力強く飲み込めという。舌を動かして喉の筋トレをしろとも言う。そうですか。分かりました。誤嚥が良くないのはよく分かる。

次は胃瘻 tube feedingの機械と道具の説明が来た。小さな電動ポンプに、液体栄養の袋を取り付けてセットする練習。ペースの設定や袋取り替えの方法やフラッシュの仕方など。はいはい。これyoutubeとかググったら取説あるんでしょ?って聞いたら、あるって言ってた。じゃーそれ見るから良いっすヨ、とも言えず、まーひと通り説明を聞く。胃瘻ポンプと液体栄養パックはバッグに入れて出かけられるようになっている。なるほど。ずっと胃瘻という人もいるもんなぁ。で、切除直後の胃は特に小さいから、必要なカロリーを少量ずつ常に胃に送り込んでいくという感じになる。わりと大変だな。

次いで栄養管理士。いやワシは日本では料理人だったし、毎日の食事も全部自分で作る。と大きめにハッタリをかましたら、あまりくどくどとした説明はせず、冊子をひとつよく読むようにと置いていった。

どれどれと読む。日本なら全粥とか七部粥とかすまし汁なんてあるけれど、アメリカだと手始めは“clear liquid” 水や紅茶、繊維を含まない透明な液体やジュース。次いで "full liquid" ミルクシェイクやヨーグルト、野菜ジュースやスムージー、濾したスープなど。そして "pureed diet" プリン、アイスクリーム、マッシュトポテト、裏ごししたバナナ、裏ごししたパスタ(?)など、咀嚼せずに飲み込める程度のもののようだ。そして“soft diet" として咀嚼が簡単で飲み込みやすいもので、硬いものや乾燥したもの、密度が高いもの以外のものとあり、例としては薄切り肉、チキン、魚、米、豆、パスタ、卵、チーズ、パン、マフィン、パンケーキなどとある。pureed dietからの飛躍がすごい。五分粥から白米みたいなジャンプ感がある。知らんけど。そうか、あくまでも胃腸に優しいものということだな。

夕方職場の同僚にtextして、退院は水曜になりそうだと伝えて迎えの付き添いを頼む。その日は勤務なのに、職場の他の人と調整して時間を作ってくれるということで感謝しかない。素で請求書が来たら1千万円は行くかもなぁ、という今回の医療費を相当カヴァーする保険も含めて、職場には足を向けて寝られない。