断・胃食道亭日乗。旧「宇宙日記。宇宙にはぜんぶある。」

(消防署のほうから来ました。) 食道胃接合部癌→術後肝転移(Stage IV)のヲッさんの暮らし。

入院10日目

午後に"swallowing test" 飲み込みのテストを行なって、切除した食道と胃の接合がうまく行っているか、漏れが出ないかを確認するという。Radiologyデパートメントに来いとあるので、造影剤かなんかを飲んで撮影でもするのだろう。カテーテルというのかバルーンというのか、術後からこれが入っていて、喉から下に鼻汁や唾液が入って行かないようになっている。これのおかげで口呼吸になってしまう事が多く、喋るのもプラスチックがあたって痛い。swallowing testにパスすれば、晴れてこれが取れるそうだから、ここはパスしたい。水や流動食も経口摂取出来るようになるはずだ。

しかし口から肛門まで、消化システムというのは複雑で繊細なシステムなんだなぁと思う。健康なら気にすることも無いのだろうけれど。お腹が張ったり痛かったり壊したり、その経路の途中にトラブルがあるだけで、生活の質が大きく変わる。咳ひとつするのも腹が痛むので参る。

午後、時間通りに「transportation service」という、何のことはない、車椅子に私を乗せて、この駄々広い病院の敷地内を、私の入院している病棟からRadiation デパートメントまでガラガラと押していってくれる仕組みのことだ。昨日はベッドに寝かされたまま連れて行かれたし、入院患者の移送にこういうアナログなシステムが機能しているのもなんだか面白い。敷地は広大だから建物に精通した人が居ないと、確かに移動に迷うだろう。

テストはスクリーンのようなものの前に立たされて、様々な粘度の液体を飲み込む様子を色んな角度から見るものだ。閉口したのはそれぞれの液体の不味さで、まー別に美味くなくてもいいとは思うけれど、安っぽいハチミツみたいなそんな味のものばかり飲まされた。喉に引っかかる甘さだ。唯一イケると思ったのは「アップルソース」で、あぁなんだかアメリカの味だなという感じがして悪くはなかった。むかしひどく風邪をひいて学校を休んで寝ている時に、母親がリンゴを擦り下ろしてくれたのを思い出した。熱っぽくて腫れた喉に気持ちよくて、あれは美味かったな。

暴走気味のtransportation serviceに載せられて、病室に戻るとすっかり疲れてしまった。我が家に戻ってうとうとしていると、先ほどの検査技師がやって来て、テストの結果は良好だという。もっとも私の食道癌切除は下部なので、嚥下に関わる機能の部分はほぼ手付かずのはずなのだ。けれども食道周りには色んな神経が走っているから、手術で損傷しなかったという保証はない。飲み込みの能力誤嚥しない能力というのは今後の生活の質に大きく関わる事なので、まずは安心した。

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ひと口を、3、4回飲み込め。3、4口食べたら安め。という貼り紙を貼って検査技師は去っていった。小学生か私は。

後に医師が来て、鼻に入っていたチューブを抜いて行った。両方の鼻が通って気分爽快。喋る時も喉にプラスチックが当たらず、滑らかに発音できるようになった。口呼吸にならず口が乾かず快適だ。

直ぐに何か飲み食いするのかというとそうでもないようで、今夜の栄養は相変わらず胃瘻からだ。