断・胃食道亭日乗。旧「宇宙日記。宇宙にはぜんぶある。」

(消防署のほうから来ました。) 食道胃接合部癌→術後肝転移(Stage IV)のヲッさんの暮らし。

手術当日覚書き

手術当日。

5時半に来いと言われていたので受付に行く。名前と保険証を確認されたあと看護師に呼ばれる。付き添いの家人とはここでお別れ。コロナの影響で、立ち合いも病院内で待ってることも出来ないらしく、家に帰るしか無い。

看護師に、ベッドのある小部屋に案内されて、着ている服を全部脱いで、手術用のペラペラのガウンに着替えろと言われる。割烹着みたいなもので、背中側をひもで結ぶ。

それからなんだか色んな書類にサインさせられる。輸血の同意とかあった。あとはSARS-CoV-2感染症のリスクとか。

看護師やら助手の医師が来て、手術の説明。どこを切るとか繋げるとか。分かってるか?と聞かれる。まぁおおむね、と答える。次いで麻酔医が来て過去に麻酔をしたことがあるか、アレルギーやリアクションはあったかなどと聞かれる。全身麻酔は25年くらい前に一回。東京で扁桃腺と口蓋垂(いわゆる「のどちんこ」)の切除手術を受けた時以来だ。あれはヤバい。お花畑が表れて、とてもいい気分だったのを覚えている。

ここまでは携帯電話が使えたので、友人や職場の人にテキストを打ったりした。警備員がやって来て、携帯電話も着ていた服と靴とともに全て預ける。

ベッドはストレッチャーのように移動出来るやつで、それに乗せられていよいよ手術室に入る。やっぱりギラギラの宇宙船の中にようだ。5、6人の人が忙しそうに準備している中、半裸のヲッさんが所在なげにベッドに座っている姿というのもマヌケ極まりない。

宇宙船の中で名前と生年月日を聞かれて答える。麻酔医が、背骨のあたりを指で押して何やら位置を確かめている。

 

…それから全く記憶がない。

名前を呼ばれて起こされたら夕方の6時半で、病室の中だった。

あとで聞いたら腹部から切開して、胃とのつなぎ目にある食道癌の患部の切除に3時間、今度は背中側から切開して胃の上部を切除して、のこった食道と残った胃の両方を繋げて3時間の都合6時間、予定通りの手術だったようである。およそ12時間近く全く記憶がなかったことになる。

 

…あちこちに色んな管が繋がれて身動きが取れない。そしてあちこち痛いが耐えられないほどでもない。麻酔や痛み止めが効いていて、「痛い」という感覚が、ちょっと意識の向こう側にあるような感じだ。鼻には管が刺されていて、喉から気管に鼻汁が行かないようになっている。これはのどに当たったりもして少し痛い。咳をしようとしても腹がひどく痛んで力が入らないので有難いと思った。それから尿道にはカテーテルが刺さっている。まぁ全く動けないのだから仕方がない。トイレを気にしなくて良い。意識があるだけのひとという感じだ。

夜、入れ替わり立ち替わり、看護師が寝床を調整に来たり、麻酔科医が痛みに度合いを聞きに来て薬を調整したり、医師が来て傷のところに入っているドレインや傷口に貼ってるパッチの張り替えなどをしていく。レントゲンも撮りにきた。指先には酸素濃度系の端末が挟んであるし、腕には血圧を測るカフが巻いてある。痛み止めを大量に入れると、寒いし血圧が下がるしで、看護師が少し慌てていた。確かに70/50なんて見たこともない血圧だ。夜中じゅう寝たり覚めたり、身動きが取れなくて不自由だったけれど、ぼんやりと色んなことを考えて退屈はせずに朝を迎えた。じっとしていればどこもさほど痛まないけれど、少し体の位置を変えようとすると傷口が傷む。当たり前か。よく言われる「せん妄」のようなものは無かった。