アル中の話。少し養命酒の想い出。
むかし働いていた新聞販売店、新聞奨学生で2年くらい後に入ってきたO君は、元高校球児で、わりと名の知れたS県の某高校の出身であった。
わたくしもO君も若かったけれど、新聞販売店の仕事も、まじめにやれば(これ重要)配達からチラシの折込の準備、集金に販売拡張と夜討ち朝駆け、かなりの肉体重労働だ。そのぶん手当も良かったけど。
毎日眠くて、いつでも身体がだるかった気がする。20代だったのに。
ある時、職場の健診の血液検査で肝機能異常が疑われて精密検査となり、エコー検査で「脂肪肝」と言われたことがある。それはたぶん宜しくないキノコを食べていたせい。(90年代初頭はまだ合法だったけれどそれはさておき。)
いや、不規則な生活と不摂生でしょう。酒は飲むし、忙しいから食事はほぼコンビニ弁当とかだったし。寝ないで競馬場に行ったり野球を観にいったり。若さって。
で、ある朝だったか晩だったか。
仕事を終えて食事をしながら競馬新聞を広げてテレビなんかを観ていたときに「養命酒」のCMが流れて、一緒にいたO君、
「あー(野球してた頃は)良く飲まされましたよー。あれ結構効くんですよ!」
という。
おーそれはいいかもね。
と、半分冗談で、買ってきた「薬用養命酒」。
養命酒は、アルコール度数14%もある立派な酒なのだけれども、「第二類医薬品」でもあるので、医薬品医療機器等法と酒税法の両方の適用を受ける(Wikipedia)んだそう。酒屋で買ったのか、薬局で買ったのか記憶が定かでない。養命酒のウェブサイトに行くと、薬局、薬店、ドラッグストアでお求め下さい、とあるので、たぶん薬局で買ってきたんだとおもう。
飲んでみるとこれが強烈な匂いと味。
アルコール度数14度の酒に「生薬」が溶け込んでる、そのまんまのお味。付属の小さいカップひとつを飲みきるのが辛かった。
あれは酒ではなくて、薬だ。
小さいカップにひとつ飲んだだけで、残りはO君にあげた。
「いいんすか?どうも。」
って言ってたくらいだから飲んだんだろうな、その後。
私は酒が好きなので、大概のお酒は飲むけれども、あれはダメだった。
あれは薬。
で、思い出したのが今は亡き父親。
あのひともお酒が大好きで、晩酌を欠かさない男だったけれど、ある日気まぐれに、人に貰った「養命酒」があったのだろう。
これも酒だしな、とグイッと飲んで「こりゃダメだ」って、言ってた。そういえば。
当時小学生だったわたくしも、ひと舐めさせて貰ったような気がする。ひと舐めだったので、それほど強烈な記憶は無かったと思うのだけど、すんごい匂いだったのは覚えている。
ありゃ酒じゃなくて薬。
さて、アル中、いまどきはアルコール依存症と言うけど。
あれは病気。
中島らも(故人)や、吾妻ひでお(故人)、鴨志田譲(故人)などの著作で、まことにリアルなご本人の闘病記が読める。リアル過ぎて震える。
彼らの特徴は、めっぽう酒に強くて、いくらでも飲めちゃうところと、感受性の強さでしょう。
それはさておき。
アル中といえば。
ずいぶん前に間借りしていた家のオーナーがこれだった。
何度か救急車が来て運ばれていってたから、かなり重症だったと思う。
真っ青な顔で、「家賃前払いしてくれないか?」と聞かれたこともあるし、あれで酒買ってたんだろうな。
冷蔵庫に置いてたビールや日本酒が、ちょくちょく無くなってるのは前から気付いていたんだけど、他のルームメイトが飲んだのかな、と、あまり気に留めずにいたのだけれども、ある時そのオーナーの奥さんが来て、ダンナはアル中だから、冷蔵庫のお酒盗ってない?って聞いてきた。それでああ、あのひとの仕業か、と分かった次第で。あのオーナー、もうたぶん生きていない気がする。
あれ、重度になると、アルコールの入ったものなら何でも飲んじゃう模様。
・・・マウスウオッシュなんかも。
となると、「養命酒」なぞ余裕でグイグイ飲めちゃうんだろうな。
というわけで、他に酒が見当たらない時に養命酒をグイグイ飲むのはアル中。
以上。
2019年11月ころ。東京スカイツリーより。