断・胃食道亭日乗。旧「宇宙日記。宇宙にはぜんぶある。」

(消防署のほうから来ました。) 食道胃接合部癌→術後肝転移(Stage IV)のヲッさんの暮らし。

床屋に行く

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46.8マイル ( ≒ 75キロ) 運転して床屋へ行く。

道のりは、ほぼハイウェイなので、渋滞していなければ1時間で着く。時速75キロという計算か。

「時速75キロ」と聞くと、スピードが出てる気がするけれど、「時速47マイル」と聞くと、それほどでもない感じがする。

こちらは一般道では30マイル( ≒ 48キロ)から40マイル( ≒ 64キロ)制限のところ、空いていれば40〜50マイル( ≒ 80キロ)で流れていたりする。

ハイウェイになると、制限速度は55マイル( ≒ 88キロ)、空いていれば65マイル( ≒ 104キロ)から70マイル( ≒ 112キロ)で流れている。ちょっと田舎に行くと、制限速度は65マイルに上がり、時速75マイル( ≒t 120キロ)で走っていても、並ぶ間も無く抜かれていくこともある。

アメリカだ。

白バイ野郎ジョン&パチンとかに追いかけられて「ヘイどーした?子供でも生まれるのか?」とか話しかけられそうだ。白バイに止められたことさえ一度も経験がないけど。

ちなみにアメリカのポリスは、そんなぞんざいな口のききかたはせずに極めて紳士的だ。捕まったことがある私がいうのだから間違いない。

 

それはさておき。

私は床屋や髪型にさしてこだわりは無く、旅先で床屋に入って、テキトーに切って貰うという事もやる。

香港の街中や、タイのビーチなんかの床屋で、テキトーに頼んで、変な刈り上げにされたり、ガチガチに頭を固められた事も、いい話のタネになった。

昔ながらの床屋で、椅子を倒されてゆっくりと髭をあたって貰うのも贅沢で気分が良い。蒸しタオルの気持ちよさといったら無い。

そんな床屋には暫くお世話になっていないけれど。

藤原新也氏の「印度放浪」だったかもしれないし、椎名誠氏だったか、東海林さだお氏だったか、その誰でもないかもしれないけれど、エッセイの一節に、「発展途上国に行くほどに、床屋は安く、時間をかけてゆったりとおこなわれるものだ。」というくだりがあって、妙に感心して、いつかインドの路上で散髪してもらいたいものだと思っているけれど、未だにインドにさえ行けていない。 

成田空港の第一ターミナル5階にある床屋も好きだ。仕事が丁寧で親切だし、乗り継ぎ時間に利用できるのが便利だ。

 

さて。

こだわり(?)があるのは家人で、その74マイル彼方の美容師さんが上手だし安いので気に入っている様子。

(確かに安いけれど、往復2時間、車を運転するのはわたくしで、そのコストは計算外のようす。)

その美容師さんは、もう少し近い美容室に務めていたのだけれど、何年か前に独立して自分で美容室を開いた。そして顧客である家人も彼女についていくことにしたというわけだ。

床屋じゃなくて美容室か。美容室だな。

 

小さいころ、母親の美容室にいちどついて行ってみたことがある。退屈極まりない時空だった。

母親は(漫画のサザエさんに出てくるような)パーマをあてる機械に頭を突っ込んで雑誌を読んだり、美容師さんやほかの客とお喋りをして、長い時間を過ごしていた記憶がある。わたくしの気を引くものは、干上がった水槽の中に散らばっている、くすんだ色合いのおはじき以外、何一つなかった。

あれだ、サロンだ。社交場であり接客をうける場所だ。

美容室はサロン。サロンを名乗る美容室も、そういえばあるではないか。そうか。そういうことか。

ただ単に散髪する床屋とは違う場所だ。

 

とまれ。

今回は、ちょっと考えた。

来週から抗癌剤の治療が始まるし、薄い頭髪がさらに抜け落ちて、抜け散らかした様相を呈する事態となるのではあるまいか。

ということでいっそ坊主にでもしておこうかとも思ったのだけれど、坊主にはいつでもできそうだし、短く刈ってもらおうと考えた。短い散髪こそ腕が分かる。ひとの頭蓋骨は、大なり小なり歪んでいるからだ。

と。

美容室に着いて座るや否や、やー今回は短めにお願い、と言う間もなく。件の美容師さんは私の希望も聞かずに、あれよあれよと散髪を済ませてしまった。彼女の娘の学校の話を聞かされながら。

運転往復2時間、散髪20分。

とりえず8週間後にまた来る予約をした。

8週間後といえば、放射線&抗癌剤を終えて、外科治療を待つ頃だ。

また運転してくる事くらいの元気はあるだろう。頭髪があるかどうかは分からないけれど。