グッドラックは「お大事に」だ。(※)
放射線は23回あるうちの12回目、抗癌剤の点滴は5回予定のうち3回目が済んだ。
切除術前治療も半分来た。the second half 後半戦に入る。
これまでは、ほとんど副作用も感じず、仕事に行ったり買い物をしたり散歩に出かけたり家事をしたり、至って普通に過ごせているので、有難いやら拍子抜けやらしている。
細かいことを言えば、胸焼けのような不快感や、立ちくらみ、ほてりや足の指先の痺れ、便秘、眠りの浅さなどは、少しあったり無かったりする。けれども常に気になるような強い不快感ではない。
あいや便秘はちょっと難儀した。私は生きてきて便秘したことがない人間なので。しかしこれは良い薬がある。ん?効かないかも?と思って追加しちゃダメ、絶対。
直近の白血球の値は更に下がって、感染弱者の領域(2,600 uL) に入った。(基準値は3,500 ~5,000)あと2割も下がったら(2,000以下)治療をいったん中止するレベルだといわれた。
COVID-19絶賛大流行中のアメリカで、ビクビクしながら手洗いとうがい、消毒清拭ばかりしながら過ごしてはいる。
それでも願望、のような思いで、私は実はすでにCOVID-19に罹っており、ほとんど症状もなく軽癒して既に抗体を獲得しているのだ、と思いこんでみたりしている。有り得ないことも無い。
そうだといいなぁ。
医者は、放射線&抗癌剤の副作用は、そのthe second halfからで、覚悟しておけと言う。治療サイクルが済む頃には、ものすごい倦怠感に襲われる、と真顔で言う。
倦怠感か。オムライスが食べたくなるな。それは、たいめいけん。
またネットで調べたところ、たしかに放射線&抗癌剤の副作用は、3週目くらいから増えるらしい。脱毛や手足の痺れ、倦怠感など。そうなったら仕方がない。どのみち動ける範囲で生活していくしかない。
こういうご時世だから、生活必需品や、食料の備蓄は増やしてきたし、出来る限りの準備はしてきた。今でもしている。
放射線&抗癌剤後半の残り2週間半、無事にくるりと周回してきたい。
無事是名馬(菊池寛)
って、食道癌になってる時点で無事じゃないけれど、治ってまた周回に戻れば「無事」だ。
抗癌剤の点滴を受けている部屋に、今日は同じく点滴を受けている人が数人、彼らの雑談から察するに全員アメリカ人の男性が居た。
彼らは他人どうしでも喋らずには居られない。黙っているのは失礼くらいに思っているフシがあるのだ。そういう文化なのだろう。
わたくしは真逆の方面の人間なので、あまり話しかけてほしくない。ドラえもんがいたら所望したいのは「石ころぼうし」だ。頼むから無視してくれ。
そのアメリカ人の1人が終わって帰り際、他のアメリカ人に
"Good luck."
と言って帰って行った。
グッドラック。
…あっ、そうか。
これは「お大事に。」という意味の言い回しだ。
2週間前の抗癌剤初日に、隣にいた小柄の年配のアメリカ人女性も、
“Good luck.”
と挨拶して帰って行った。
これを、Good luck = 「ご武運を」あるいは「幸運を」と訳してしまうとピンとこない。
(癌などのもしかして治癒が見込めないかもしれない、または治療の長引くような病気の患者どうしや病人への挨拶)はgood luck「お大事に」だ。(※)
20年もアメリカに暮らして来て初めてわかった。というか自分がそう言う状況にならないと分からないコンテクストだけれども、この "good luck" = 「お大事に」はストンと腑に落ちた。
ひとつまた英語を学んだ。
癌になって医者に通うにしても学ぶことがあるものだなと思った。
私の点滴も終わり、帰り際に残っていたアメリカ人男性と目が合ってしまったので、
"good luck."
とあいさつすると、
"good luck."
と男性も返してきた。
(※) 筆者注:しかしながらこれは …言葉というものは常にそういうものだけれど、相手との人間関係と状況と文脈と表情と抑揚によっては、素っ気ないし、嫌味にもなるのは間違いない。これを病人に言って、あなたが撃たれても自己責任です。知らんけど。
カジュアルに「お大事に」「元気になってね」という場合は、
Take care. と、Get weii soon.
あたりが無難です。
God bless you は、相手が明らかにクリスチャンでない場合は地雷を踏む可能性があるので、年配の人を除いて忌避する傾向にあります。