あの人は帰ってこれるだろうか
ついに、今朝から月末まで、telework(在宅勤務)となった。どう考えても在宅で出来る仕事ではないのだけれど、そういう指示なのだからやってる感を出すほか仕方がない。はいやってますよー。と適当なことを書いていると、容赦なく電話が来る。電話で説明出来ることじゃないのだが。
昨夜、そのteleworkのための引継ぎとマニュアルを、急遽作って置いて来なければならず、残業となった。
仕事帰りにスーパーに立ち寄った。21時ころだった。
エレベーターを待って乗ろうとすると、先に並んでいた男性に「次のに乗ってもらえないか?」と言われた。同じ箱の中に居たくないという事だ。アジア人差別だとか嫌がらせという雰囲気ではなく、言い方も普通で、「ウチには感染弱者の妻と子供が居る。悪く思わないで欲しい。分かるだろ、この時期みんなナーバスになっているんだ、こんどテキサスから従妹が来て云々…」とも一方的に言ってた気がする。
私は一方的に長い話は聞かないで流す。話者には会話を成立させる気が無いからだ。
話の長いひとに、ためしに「ちょっと何言ってるかわかんないです。」(©︎ サンドイッチマン) と言ってみるといい。聞いてないから。
はいはいオッケー。
と受け答えしてエレベーターを一回見送ったけれど、その近い距離でベラベラと喋り続けるのほうが、よほどの飛沫を飛ばしているのは間違いない。
"Social distancing"といって、「社会的な距離」なんて訳すとさっぱり分からなくなるけれど、要は感染を防ぐために、他者とじゅうぶんな間合いを取れということで、アメリカでは6フィート ≒ 1.8メートルと啓蒙されている。列に並ぶのでも、会話をするのでも。
そこまでの距離は取れないスーパーのレジでは店員が、マスクとゴム手袋とゴーグルをして、客との間には透明なプラスチックの仕切りで対応している。まぁわかる。
誰もが、自分ではない他者が感染しているかもしれないという前提の振る舞いをしている。
今朝6時ころ、まだ暗いうちから鳥が鳴き始めたなと思ったら、うちのアパートの裏の出入り口に面している窓の外が騒がしい。ディーゼルエンジンの車の音だ。
目が覚めてしまったので外を覗いてみると救急車だ。
ストレッチャーに乗せられて痩せた年配のひとが運ばれていく。
うちのアパートはリタイヤした老人が多く住んでおり、一部の暇で話好きでしつこい人を除いて、皆物静かでナイスな人々なのだが、そのうちの誰だだったか顔までは分からない。
乗せられていったあの人は帰ってこれるだろうか。
散歩をしている道すがらにある小さな公園の遊具は、黄色い立ち入り禁止のテープで囲われている。「この公園はCOVID-19(新型コロナ)の関係上健康に問題があるため閉鎖」とのサインがある。