ニッケル&ダイムド
土曜のあさ。
信号で停まった交差点で、自称Artist (手にしている段ボール紙にそう書いてある)の60歳過ぎくらいの白人の女性を見つける。
ときどき立ってるのを見かける人だ。
最初に見たのはいつだったか、たぶん何年か前のクリスマスの頃だ、なんとなく$20札をあげたら、驚いたのか、顔を二度見されて、サンキュー God bless youと言われた。
ホームレス(と本人も自称はしていない)にしてはいつも小ざっぱりした格好をしているし、不健康そうにも見えない痩せ形の女性で、最初に彼女見かけたときには、何処ぞの大学の社会学者あたりが、路上でホームレスに扮して社会実験でもしているのではないか?と思った。
Sociology(社会学)のクラスで、そういう社会実験的なことをやってペーパーを書いたりしたことがあった。
(女装してスーパーに買い物に行ったり、アイスクリーム屋で際限なくサンプルを所望し続ける、ということをやった。長くなるのでまた別の機会に。たぶん。)
「ニッケル&ダイムド」という本がある。
アメリカのジャーナリストが、自分の本来の肩書や経歴を隠して、家政婦やスーパーの店員、ウエイトレスなど、最低賃金の仕事を実際にやり、週払いのモーテルに住んで、「どうにかこうにか暮らしてみる」というノンフィクションで、それを思い出した。
片岡義男氏の書評にも詳しい。
あっ。
ちなみに、この著者のバーバラ・エーレンライクというひとは、『私は、こんまりが嫌い。』とtweetして、物議を醸しだしちゃったひとです。
I confess: I hate Marie Kondo because, aesthetically speaking, I’m on the side of clutter.
— Barbara Ehrenreich (@B_Ehrenreich) 2019年2月4日
As for her language: It’s OK with me that she doesn’t speak English to her huge American audience but it does suggest that America is in decline as a superpower.
各方面からの指摘がある通り、「英語を話さない彼女がアメリカで人気を得てるのはいいけど、アメリカも落ちたもんだってことネ」(筆者てきとう訳)…と読み取れるだろうか。
こんまりさんは、ご自身のWebショップで、ときめく品々を販売中のようです。
それはさておき。
この本の出版が2001年。
リサーチはその前だろうから1999年から2000年あたりだろう。
1999年は、私がアメリカに来た年だ。
ベーカリーの下働きの仕事を、時給$6.50で始めた。
ときの大統領は、ビル・クリントン(2001年まで)。
2008年の金融危機までは、景気は良かったのではないかと思う。
$6.50の時給は、辞めるまでの7年で、倍まで上がった。
というわけで。
今日は信号でタイミング良く彼女の横に停まっ(ってしまっ)たので、なんだか無視も出来ずに$10渡した。
Ah, hi! How are you doing? あー、あなた!元気でやってる?と挨拶された。
顔を覚えられていたか。
あーはい。
いやまぁうーんとええとあのその来週から放射線&化学療法なんっすよね手術前の。
などと知らない人に話を聞いてもらうのも気休めになるかとも思ったけれど、彼女とて何か重いものを背負っているかも知れない。
そしてもし、それを聞かされたら私は引き受ける自信がない。
何より、引き留めて稼ぎの邪魔をしてはいけない。
Doing well. Have a nice weekend. ボチボチですわ。よい週末を。
とだけ返して、車を進めた。
また何時でも$10くらいは渡せる元気な自分で居ようではないかと思った。
社会実験でもしているんじゃないか、と私が勝手に思っていたくだんの女性は、こうして交差点の中央分離帯に立って、ドライバーが喜捨をして何か違う気分になる手助けをしてくれているのだ。たぶん。